大田区の中小企業と下町ボブスレー -中小企業の底力-(東京都・高校生)


下町ボブスレーで注目されるようになった大田区の町工場の取り組みと、下町ボブスレーにかける想いを、現在、下町ボブスレー2号機の製作に関わっている三力工業株式会社の営業担当 入澤英寿(えいす)さんにお話いただきました。また、家族経営で三代続く三力工業の取り組みや、四代目を目指し営業でがんばることを決意した入澤さんの、後継者になろうと思った理由や将来に向けてのお話もしていただきました。

 

しごと講話:2013/6/19

計画・進捗

将来における「働く」を考えて、中小企業を知る機会としました。中小企業が高い技術力を持っていることを理解し興味を抱けるように、話題性のある「大田区 下町ボブスレー」、冬季オリンピック競技であるボブスレーの「ソリ」製作に携わる方の仕事講話を考えました。「下町ボブスレープロジェクト」大田区産業振興協会の松山様とのやり取りから、三力工業株式会社の入澤さんを紹介していただき、講話をしていただくことになりました。

事前打合せ ・ 事前学習

実施前週にて、次のような内容で事前学習を行いました。

・東京都大田区が取り組む「下町ボブスレー」のプロジェクトについて説明。

・日本における中小企業の割合は、全企業の99.7%で、雇用者全体の約70%を占めている。

・大企業の技術も、中小企業が支えている。

・会社独自の取り組みにて、世界シェアNO.1の中小企業もある。

・大田区は「図面を空から落とせば、物ができる」といわれるほど、プロ技術力の高い中小企業地区である。

当日の様子

生徒たちは、どんな講話になるのかと興味津々。まずは大田区の企業特徴について説明をいただく。例えば「大きさ」について。一般の世界では「0.8ミリ」という大きさは、髪の毛の太さ程度であり、決して大きい数字とは言わない世界であるが、大田区の企業にとっては「0.8ミリ」は大きな問題とのこと。なぜか!「大田区の企業では『0.001ミリ = 1ミクロン』の世界で勝負しているのです。」というお話にびっくり。しかも、その大きさで部品の一部を成している場合が多いとのこと。よって、実際に目にすることは少ないのである。「製造業」と聞いて目に見える製品を想像し、何かに使えるものを描いていた生徒たちにとって、目からうろこ状態でした。その技術力を持っての製造業集団であり、1980年代には9,000社を数える企業数を誇ってました。

 

しかし残念なことに、技術力があるばかりに、職人気質のこだわりによって、現在では半分以下の4,000社になっているという状況には、生徒にも大きな驚きと嘆きがありました。そのような状況下で、なぜ大田区が「ボブスレー」を作ることになったのか。因みに世界を見ると、ドイツでは国家援助にてBMWが、イタリアではフェラーリが「ボブスレー」を作っているとのこと。生徒は「なぜ下町?」「なぜ大田区?」と思ったようです。その一方で、それほど注目されているボブスレー作りを大田区が取り組んでいることに、都民として少し誇りに思えたようです。最後に、三力工業株式会社が作っているものや後継者としての想いを伺いました。入澤さんの夢は「笑顔の世界征服です」という発言に、生徒たちは最初はピンときていませんでしたが、「自社の製品を見たり聞いたりした方が『ああ三力の』と言って笑顔になる」という解説に納得していました。会社を継ぎ、自分なりの経営ビジョンで発展させようとする入澤さんの熱い想いは、生徒たちの心に強く響いたようです。

授業開始。何が始まるのかどんなお話なのか興味津々です。
授業開始。何が始まるのかどんなお話なのか興味津々です。
だんだん生徒も、姿勢が前方に。一生懸命聴いていました。
だんだん生徒も、姿勢が前方に。一生懸命聴いていました。

事後学習

ワークシート提出後、少し製品を使わせていただきました。
ワークシート提出後、少し製品を使わせていただきました。

事後学習ではワークシートと感想を記入。今、売り出し中の商品も実際に使わせてもらいました。以下、生徒の感想の中から一部紹介します。

 

・自分の住んでいる地元大田区の企業が、こんなに減っていることに驚いた。一方、ボブスレーを作っていたことはすごいと思いました。

・ものづくりについて知る機会が少ないので勉強になった。次回、この会社へ職場見学に行くのでとても楽しみである。

 


・企業というと、知名度がある大きな会社しか知らなかったし、それが「日本企業」のイメージでした。しかし講話を終えて、大田区の企業こそ「日本の企業」だと思った。とても貴重なお話でした。

・他国のボブスレーを分解し、図面に落とすところから始めた大田区の取り組みは、すごいと思いました。自分たちで作ったものには、とても自信をもっているところにプライドを感じた。

・想いを持って取り組んだら、それはものすごい力になるということを感じました。

所感 ・ 振り返り

当初、下町ボブスレーで興味を引き、少しでも前向きに取り組んでもらえればと考え、また、日本の中小企業の技術力に注目がいけばと思い実施しました。しかし、実施してみると生徒はミーハー的な反応では無く、純粋に「ものづくり」に興味を持ったようで、予想に反しとても良かったと感じました。今の生徒は、何か工夫をして使うとか、物を分解したり組み立てたりすることは、ほとんど経験のないことだと感じてます。そんな彼らにとって、設計図も無いボブスレーに、海外の「もの」を分解するところから始めるという発想が、実に新鮮で驚きだったのではないでしょうか。日本は資源の乏しい技術立国なので、こうした機会にものづくりに興味を持ち、技術者になりたいという生徒が一人でも多く出てきたら、素晴らしいことだと思います。今回の講話は、「授業は生きている」ということを改めて感じる機会ともなりました。生徒の反応や感受性は、時としてこちらの想像を超えるということを痛感しました。

実施校・参加者

私立 第一学院高校 高萩校(四ツ谷キャンパス)

男子14名、女子13名